無料プレビュー 4 / 4

実践演習 — 自分の業務ループを設計する

この演習のゴール

  • 自分の反復業務を1つ選び、ループ設計図に落とし込める
  • AI Agentに任せる範囲と、人間が確認する範囲を分けられる
  • 完了条件・検証方法・停止条件を含む安全な最小ループを作れる
  • 利用者が最後に終える操作から、AIへの改善依頼書(6欄)を書ける

読者が申込みを終えるまでの5段階。来訪、無料本文、内容と費用の確認、申込み、受付。改善前は無料本文から内容と費用の確認へ進む案内がなかった

最初に扱う実例の結論です。完了を判定する単位は「画面が動いた」ではなく、「読者が⑤の受付まで終えられた」です。

この演習の流れ

  1. 実例で型をつかむ — 導線が途切れていた実例を6欄の依頼書にし、AIへの依頼と人の確認を練習する
  2. 題材を決める(Step 1) — 小さく切れる反復業務を1つ選ぶ
  3. 設計図を書く(Step 2) — テンプレートを埋める
  4. Goalを他者に精査させる(Step 3) — 実行前にレビューを通す
  5. 1周だけ試す(Step 4) — 増えたものを数え、証跡を残す
  6. 自己評価する(Step 5) — 合格基準で確認する

実例:動く画面ではなく、申込みまで終えられる導線を作る

機能があっても、使う人が目的を達成できるとは限りません。実際の講座では相談する仕組みが存在していたのに、読者がそこへ進むリンクがありませんでした。どこから来た人が何を終えたいのかを先に決めると、作るべき変更を小さくできます。

確認できたことと、まだ分からないこと

当社(株式会社COMPASS)の公開講座の1つで、2026年9月29日に次のことを確認しました。

種別 内容
観測 講座ページ・各レッスン・無料プレビューの計12ページに、相談の受付へ進むリンクが1つもなかった
観測 相談の受付フォームと、相談料金を載せた講師のプロフィールはすでに存在していた。受付フォームからの相談はその時点で累計0件だった
変更 新しい仕組みは作らず、講座ページ・無料プレビューの末尾・最後の演習の末尾に、既存の受付へつながる「この講座の内容で相談する」カードを表示した
未測定 カードを追加したことで相談や売上が増えたかは、まだ測定していない

相談を受け付ける仕組みそのものは、すでに用意されていました。足りなかったのは、読者がそこまでたどり着く道です。自動テストがすべて通っていても、利用者が最後の操作まで実際に進めるかを見ていなければ、完了とは言えません。そして効果は、測るまでは「未測定」と書きます。

持ち帰る1枚:6欄の依頼書

AIに改善を頼む前に、次の6欄を埋めます。右の列は、上の実例で書いた場合の見本です。

欄 書くこと 記入見本
1. 誰の課題 どこから来た誰が困っているか 講座を読み、自社に当てはめたいが1人では判断しきれない読者
2. 完成してほしい行動 利用者が最後に終える操作 講座の内容と相談料金を確認し、その講座について相談を1件送る
3. 変更する箇所 目的を満たす最小の変更 講座ページ・無料部分の末尾・最後の演習の末尾から、既存の受付へつなぐ
4. やらないこと 今回は作らないもの 新しい顧客管理の仕組み、予約システム、一斉配信
5. 正常・失敗時の確認 何をたどって確かめるか ログインしていない状態で講座から受付まで進めるか。入力を誤ったとき、入力内容を失わずに直せるか
6. 追加開発を止める条件 いつ止めて測るか 受付まで進めることを確かめたら止める。入口への到達数と受付の実数を見てから、次に直す1箇所を選ぶ

自分の仕事では、次の空欄をコピーして使ってください。

1. 誰の課題:
2. 完成してほしい行動:
3. 変更する箇所:
4. やらないこと:
5. 正常・失敗時の確認:
6. 追加開発を止める条件:

演習:AIに依頼書を作らせ、人が確かめる

次の入力をそのままAIに渡し、6欄の依頼書を作らせてください。

架空の演習。実メール送信、課金、公開操作はしない。
状況:無料の講座本文は読める。相談の受付フォームは存在するが、講座からの案内がない。
目的:講座を読んだ人が、相談内容と費用を確認し、その講座について1件の相談を送れるようにする。
既存のフォーム、講師プロフィール、料金表示を使う。新しいCRMや予約市場は作らない。
6欄(対象者・目的行動・最小変更・対象外・確認方法・追加開発を止める条件)の実装依頼書を作成する。
売上、利用者数、改善率を推測で実績として記載しない。

期待する回答の要点

  • 対象者:講座の読者
  • 目的行動:内容と費用を確認したうえで、相談を受付まで送れること
  • 最小変更:講座内の適切な位置から、既存の講師カードと受付フォームへつなぐ
  • 対象外:新しいCRM、一斉配信
  • 確認方法:ログインしていない状態から受付までたどれること、誤入力から元に戻れること
  • 止める条件:入口への到達数と受付の実数を見て、次に直す1箇所を選ぶ

よくある誤答:「先に比較サイトと会員ランクを作る」。相談を1件送れるようにするという目的の外にある機能です。

訂正の指示:

既存の受付で目的を満たす最小変更だけを残してください。

AIの依頼書をそのまま採用せず、5欄目の確認は人が実際の画面でたどります。ここを飛ばすと、この実例と同じ「仕組みはあるのに届かない」状態が残ります。

別の題材に使うとき:相談ではなく有料講座の購入に置き換える場合、目的は受付で止まらず、「決済が確認された後に、正しい講座を受講できる」までになります。問い合わせ用の条件をそのままコピーせず、2欄と5欄を題材に合わせて書き直してください。

次に選ぶ行動

  • 自分で進める:このあとのStep 1〜5で、自分の業務を題材に設計図を書き、1周だけ試します。6欄の依頼書は、Step 2の「目的と完了条件」「触ってはいけない先」「停止条件」を書くときの下書きになります。相談しなくても最後まで進められます。
  • 個別に判断したい:自社の業務にどう当てはめるか迷う場合は、このページの末尾と講座ページにある講師カードから、この講座の内容で相談できます。相談料金はカードに表示しています。

演習の題材

次の題材を使うか、自分の業務に置き換えてください。

毎週、問い合わせ履歴と会議メモを集めて、チーム向けの週次サマリーの下書きを作る。外部への送信や公開はせず、担当者が確認してから共有する。

この題材は、入力資料があり、成果物の形を決めやすく、最後に人間の確認を置けるため、最初のループ設計に向いています。

Step 1:対象業務を小さく切る

次の条件を満たす業務を選びます。

  • 同じ手順を繰り返している
  • 入力と成果物を説明できる
  • 結果の良し悪しを自分または担当者が判断できる
  • 失敗しても、最初は取り返しがつく

「営業活動を全部自動化する」のような大きなテーマは、最初のループには向きません。「先週分の問い合わせを分類して、確認用の下書きを作る」まで小さくします。

Step 2:設計図を埋める

次のテンプレートを使って、空欄を埋めてください。

ループ名:
トリガー:

目的と完了条件:
入力・参照範囲:
正本と照合先:
書いてよい先:
読んでよい先:
触ってはいけない先:
Agentが行う行動:
使える道具と権限:

検証する証拠:
実行時点・入力の版:
次回へ残す状態:
前回からの引き継ぎ方法:
失敗時の復旧方法:
停止条件:
人間へ相談する条件:
1回あたりの上限:

記入例

ループ名:週次問い合わせサマリー下書き
トリガー:毎週月曜、担当者が開始

目的と完了条件:
前週分の問い合わせを分類し、件数・重要な傾向・未対応事項を
1ページの下書きに整理する。各件数が元データと一致している。

入力・参照範囲:
前週の問い合わせ一覧と、チームの分類ルール。対象は前週の日付だけ。
正本と照合先:
問い合わせ台帳を件数・IDの正本とし、作成した下書きと照合する。
書いてよい先:
下書きフォルダへの新規ファイル作成のみ。
読んでよい先:
前週分の問い合わせ一覧、チームの分類ルール。
触ってはいけない先:
問い合わせ台帳の原本、既存の共有文書、前週以外の問い合わせ、外部送信先。
Agentが行う行動:
重複を確認 → 分類 → 件数集計 → 傾向を要約 → 下書きを作成
使える道具と権限:
指定フォルダの読み取り、下書きフォルダへの新規保存のみ。
外部送信と既存ファイルの削除は不可。

検証する証拠:
入力件数と分類後の合計が一致すること、未分類件数が明示されること、
要約の主張に参照元の問い合わせIDが付いていること。
実行時点・入力の版:
処理日時、対象期間、入力一覧を取得した時点を記録する。
次回へ残す状態:
処理日、対象期間、処理済みファイル名、未分類ID、エラー内容。
前回からの引き継ぎ方法:
同じ対象期間の続きなら前回の記録を読み込んで再開する。
記録が無いときだけ新規に開始する。
失敗時の復旧方法:
下書きだけを破棄または別名保存し、元の問い合わせ台帳と共有文書は変更しない。
停止条件:
入力期間が不明、件数が一致しない、同じエラーが2回続く、3回試行した。
人間へ相談する条件:
機密情報が含まれる、分類ルールにない問い合わせがある、共有前の承認が必要。
1回あたりの上限:
30分、3回の試行、指定フォルダ内の100件まで。

Step 3:Goal構文を別Agentにレビューしてもらう

Step 2で書いた「目的と完了条件」を、Goal構文として別のAI Agentに渡します。ここでいう別Agentは、サマリーを作る実行Agentとは別のレビュー役です。

GOAL:
  trigger: 毎週月曜、担当者が開始
  objective: 前週の問い合わせをチーム向け下書きに整理する
  scope: 前週の日付を持つ指定フォルダの問い合わせだけ
  constraints:
    - 元資料にない事実を補わない
    - 外部送信・公開・削除をしない
  done_when:
    - 件数が元データと一致する
    - 未対応事項と参照元IDが記録されている
  evidence: 入力件数と集計表、未分類件数、参照元ID
  stop_when: 入力期間が不明、件数が一致しない、同じエラーが2回続く、3回試行した
  escalate_when: 機密情報または分類不能な問い合わせを検出した
  budget: 30分、3回、100件まで

レビューAgentには、次を確認させます。目的と完了条件が測定可能か、対象範囲と禁止事項が明確か、証拠を独立して取得できるか、停止・相談条件と上限があるか、実行Agentが目標を都合よく解釈できないか。結果はPASSまたはBLOCKと理由で返してもらいます。BLOCKなら自動実行せず、人間とGoalを修正します。レビューAgentがGoalを書き換えてそのまま実行することは許可しません。

レビューで確定したGoalに版番号を付け、実行Agentへ渡します。実行中に目的・範囲・完了条件を変更したくなった場合は、いったん停止し、変更後のGoalを再レビューします。

実行Agentへの渡し方は、CodexかClaude Codeの /goal を使うのが手軽です。確定したGoalの目標・完了条件・範囲・止める条件を、/goal の後ろに数行でまとめます。/goal が止まっても、それで完了とは扱いません。次のStepで、証拠と照らし合わせて確かめます。

Step 4:最小ループとして試す

設計したループを、いきなり自動実行しません。まずは次の手順で1周だけ試します。

  1. できれば、本番ではなく影響の出ない場所(コピーしたフォルダ、テスト用データ)で試す
  2. 入力範囲と権限が設計どおりか、人間が確認する
  3. Agentに1つの行動だけ実行させる
  4. 結果と参照元を記録する
  5. 完了条件を満たすか、チェックリストで確認する
  6. 不一致なら修正して再試行する。ただし上限を超えたら停止する
  7. 次回に残す状態と、設計の改善点を記録する

1周したら、増えたものを数える

1周終えたら、「作業した感じ」ではなく何が増えたかを数えます。次の3つのどれかが1つ以上増えていなければ、その周は前進していません。

  • 完成した成果物(ファイル・下書き・集計表など)
  • 検証で確定した事実(照合済みの件数、確認できた前提など)
  • 減った不明点(次に何をすべきかが具体化した項目)

すべてゼロなら、もう1周回す前に立ち止まります。多くの場合、原因は AI 側ではなく次のどれかでした。

  1. 依頼が大きすぎて、1周では終われない形になっている
  2. 完了条件が曖昧で、何をもって増えたと言えるか決まっていない
  3. 成果は出ているが、確認する場所が違っていて拾えていない

このとき、実際に Agent へ送られた指示の全文も確認します。設計図に書いたつもりの内容が、そのまま届いているとは限りません(第3回)。

実行結果を証跡として残す

1周試したら、成功したかどうかだけでなく、次の記録を残します。

  • 使ったGoalの版、対象範囲、入力の版と取得時点
  • 正本と照合した結果、件数、差分、参照元
  • 成功ケースと、対象外・入力不足などの失敗ケース
  • Agentが変更した実体と、変更しなかった保護対象
  • 失敗時にどこまで戻せるか、次に誰が何を判断するか

成功レスポンスや完了メッセージだけでは、実際の成果物や利用経路が正しいとは限りません。可能なら、利用者が実際に使う代表的な経路でも1回確認します。

Step 5:合格基準で自己評価する

次の項目にすべて「はい」と答えられれば、最小ループとして提案できます。

  • 目的と完了条件が1文で説明できる
  • Goal構文を別Agentがレビューし、PASSまたは修正後の再レビュー記録がある
  • Agentが参照できる入力範囲を限定している
  • Agentに与える権限が必要最小限になっている
  • シェル実行のような「何でもできる道具」を渡していない
  • 禁止したい操作を指示文だけで防がず、権限そのもので防いでいる
  • 完了を判断する証拠が決まっている
  • リトライ回数・時間・費用の上限がある
  • 失敗時に、エラーと未解決事項が残る
  • 正本との照合結果と、対象外が変更されていない証拠がある
  • 成功ケースだけでなく、少なくとも1つの失敗ケースで安全に止まる
  • 実行時点・入力の版・変更実体を記録している
  • 失敗時の復旧方法または人間へ戻す条件が決まっている
  • 外部送信・公開・削除などの前に人間の承認がある
  • 書いてよい先・読んでよい先・触ってはいけない先が分けて書かれている
  • 1周終えたときに「何が増えたか」を数えられる
  • 実際にAgentへ送られた指示の全文を確認できる
  • 次回に引き継ぐ状態が決まっている

「いいえ」が残る項目は、Agentを賢くする前にループの設計を直します。特に完了条件・証拠・停止条件が曖昧なまま自動化を進めないでください。

まとめ

  • 最初の題材は、繰り返しがあり、結果を判断しやすく、失敗時の影響が小さい業務を選ぶ
  • ループ設計図には、目標・入力・行動・権限・検証・状態・停止・上限を書く
  • まず手動で1周し、結果と失敗を記録してから自動化の範囲を広げる
  • 「正しくできた証拠」と「安全に止まる条件」がなければ、ループは完成していない
  • 外部への確定操作は、最後まで人間の承認を残す
  • Goal構文を別Agentに精査させ、PASS/BLOCKと最終版を記録する
  • 触ってよい範囲は「書いてよい先・読んでよい先・触ってはいけない先」に分けて固定する
  • 1周ごとに、成果物・確定した事実・減った不明点のいずれかが増えたかで判定する
  • 完了は「機能が動く」ではなく「利用者が目的の操作を終えられる」で判定し、効果は測るまで未測定と書く

振り返り

  • あなたが作ったループの「最小の1周」は、どこからどこまでですか?
  • Agentが誤った場合、どの証拠を見て気づけますか?
  • 次に改善するなら、入力・行動・検証・停止のどこですか?
  • 1周目で「増えたもの」は何でしたか。ゼロだった場合、原因は依頼の大きさ・完了条件・確認場所のどれでしたか?
  • あなたの仕事の利用者が最後に終えるべき操作は何ですか。実際にそこまでたどって確かめましたか?

出典・クレジット

本文中の運用上の知見(触ってよい範囲の3分割、1周ごとに増えたものを数える判定、実際に送られた指示の確認)は、株式会社COMPASS が自社プロダクト開発で複数 AI Agent を運用した際の実測と記録にもとづく自社作成の内容です。

相談導線の実例は、株式会社COMPASSが自社の公開講座で2026年9月29日に確認した記録にもとづく自社作成の内容です。表の「未測定」のとおり、カード追加後の効果はまだ測定していません。6欄の依頼書と演習は、この記録をもとに作成した架空の演習です。

そのうえで、本教材は次の一次資料を参照し、内容を独自に再構成しています。資料本文の転載は行っていません。 この資料は査読前のpreprintであり、確立した業界標準としてではなく、比較的新しい実務概念を整理する参考資料として扱っています。

  • Stop Hand-Holding Your Coding Agent(arXiv preprint) — Sandeco Macedo, CC BY 4.0
  • OpenAI「Follow a goal」「Using Goals in Codex」、Anthropic「Claude Code Docs」(/goal・/loop)— Codex と Claude Code に組み込まれたループ機能の仕様を参照(2026-10-01確認)
無料成果課題

今日学んだことを、あなた自身の言葉で1文にまとめてみましょう(任意・採点はありません)。

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栗田 のアイコン

栗田経営者向けAI導入・AI Agent活用 X @hikarine3

COMPASSのAI導入と業務設計を支援しています。経営課題を整理し、AI Agentへ任せる範囲と人が確認するポイントを一緒に設計します。

相談できること

  • 自社の業務で AI Agent のループを設計したい
  • AI Agent の品質ゲートと監査の仕組みを作りたい
  • Claude Code / Codex の運用ルールを整えたい

相談料: 初回の最初の30分: 20,000円 (税別)。2回目以降と延長: 30分ごとに50,000円 (税別)。

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