実践演習 — 自分の業務ループを設計する
この演習のゴール
- 自分の反復業務を1つ選び、ループ設計図に落とし込める
- AI Agentに任せる範囲と、人間が確認する範囲を分けられる
- 完了条件・検証方法・停止条件を含む安全な最小ループを作れる
- 利用者が最後に終える操作から、AIへの改善依頼書(6欄)を書ける
最初に扱う実例の結論です。完了を判定する単位は「画面が動いた」ではなく、「読者が⑤の受付まで終えられた」です。
この演習の流れ
- 実例で型をつかむ — 導線が途切れていた実例を6欄の依頼書にし、AIへの依頼と人の確認を練習する
- 題材を決める(Step 1) — 小さく切れる反復業務を1つ選ぶ
- 設計図を書く(Step 2) — テンプレートを埋める
- Goalを他者に精査させる(Step 3) — 実行前にレビューを通す
- 1周だけ試す(Step 4) — 増えたものを数え、証跡を残す
- 自己評価する(Step 5) — 合格基準で確認する
実例:動く画面ではなく、申込みまで終えられる導線を作る
機能があっても、使う人が目的を達成できるとは限りません。実際の講座では相談する仕組みが存在していたのに、読者がそこへ進むリンクがありませんでした。どこから来た人が何を終えたいのかを先に決めると、作るべき変更を小さくできます。
確認できたことと、まだ分からないこと
当社(株式会社COMPASS)の公開講座の1つで、2026年9月29日に次のことを確認しました。
| 種別 | 内容 |
|---|---|
| 観測 | 講座ページ・各レッスン・無料プレビューの計12ページに、相談の受付へ進むリンクが1つもなかった |
| 観測 | 相談の受付フォームと、相談料金を載せた講師のプロフィールはすでに存在していた。受付フォームからの相談はその時点で累計0件だった |
| 変更 | 新しい仕組みは作らず、講座ページ・無料プレビューの末尾・最後の演習の末尾に、既存の受付へつながる「この講座の内容で相談する」カードを表示した |
| 未測定 | カードを追加したことで相談や売上が増えたかは、まだ測定していない |
相談を受け付ける仕組みそのものは、すでに用意されていました。足りなかったのは、読者がそこまでたどり着く道です。自動テストがすべて通っていても、利用者が最後の操作まで実際に進めるかを見ていなければ、完了とは言えません。そして効果は、測るまでは「未測定」と書きます。
持ち帰る1枚:6欄の依頼書
AIに改善を頼む前に、次の6欄を埋めます。右の列は、上の実例で書いた場合の見本です。
| 欄 | 書くこと | 記入見本 |
|---|---|---|
| 1. 誰の課題 | どこから来た誰が困っているか | 講座を読み、自社に当てはめたいが1人では判断しきれない読者 |
| 2. 完成してほしい行動 | 利用者が最後に終える操作 | 講座の内容と相談料金を確認し、その講座について相談を1件送る |
| 3. 変更する箇所 | 目的を満たす最小の変更 | 講座ページ・無料部分の末尾・最後の演習の末尾から、既存の受付へつなぐ |
| 4. やらないこと | 今回は作らないもの | 新しい顧客管理の仕組み、予約システム、一斉配信 |
| 5. 正常・失敗時の確認 | 何をたどって確かめるか | ログインしていない状態で講座から受付まで進めるか。入力を誤ったとき、入力内容を失わずに直せるか |
| 6. 追加開発を止める条件 | いつ止めて測るか | 受付まで進めることを確かめたら止める。入口への到達数と受付の実数を見てから、次に直す1箇所を選ぶ |
自分の仕事では、次の空欄をコピーして使ってください。
1. 誰の課題:
2. 完成してほしい行動:
3. 変更する箇所:
4. やらないこと:
5. 正常・失敗時の確認:
6. 追加開発を止める条件:
演習:AIに依頼書を作らせ、人が確かめる
次の入力をそのままAIに渡し、6欄の依頼書を作らせてください。
架空の演習。実メール送信、課金、公開操作はしない。
状況:無料の講座本文は読める。相談の受付フォームは存在するが、講座からの案内がない。
目的:講座を読んだ人が、相談内容と費用を確認し、その講座について1件の相談を送れるようにする。
既存のフォーム、講師プロフィール、料金表示を使う。新しいCRMや予約市場は作らない。
6欄(対象者・目的行動・最小変更・対象外・確認方法・追加開発を止める条件)の実装依頼書を作成する。
売上、利用者数、改善率を推測で実績として記載しない。
期待する回答の要点
- 対象者:講座の読者
- 目的行動:内容と費用を確認したうえで、相談を受付まで送れること
- 最小変更:講座内の適切な位置から、既存の講師カードと受付フォームへつなぐ
- 対象外:新しいCRM、一斉配信
- 確認方法:ログインしていない状態から受付までたどれること、誤入力から元に戻れること
- 止める条件:入口への到達数と受付の実数を見て、次に直す1箇所を選ぶ
よくある誤答:「先に比較サイトと会員ランクを作る」。相談を1件送れるようにするという目的の外にある機能です。
訂正の指示:
既存の受付で目的を満たす最小変更だけを残してください。
AIの依頼書をそのまま採用せず、5欄目の確認は人が実際の画面でたどります。ここを飛ばすと、この実例と同じ「仕組みはあるのに届かない」状態が残ります。
別の題材に使うとき:相談ではなく有料講座の購入に置き換える場合、目的は受付で止まらず、「決済が確認された後に、正しい講座を受講できる」までになります。問い合わせ用の条件をそのままコピーせず、2欄と5欄を題材に合わせて書き直してください。
次に選ぶ行動
- 自分で進める:このあとのStep 1〜5で、自分の業務を題材に設計図を書き、1周だけ試します。6欄の依頼書は、Step 2の「目的と完了条件」「触ってはいけない先」「停止条件」を書くときの下書きになります。相談しなくても最後まで進められます。
- 個別に判断したい:自社の業務にどう当てはめるか迷う場合は、このページの末尾と講座ページにある講師カードから、この講座の内容で相談できます。相談料金はカードに表示しています。
演習の題材
次の題材を使うか、自分の業務に置き換えてください。
毎週、問い合わせ履歴と会議メモを集めて、チーム向けの週次サマリーの下書きを作る。外部への送信や公開はせず、担当者が確認してから共有する。
この題材は、入力資料があり、成果物の形を決めやすく、最後に人間の確認を置けるため、最初のループ設計に向いています。
Step 1:対象業務を小さく切る
次の条件を満たす業務を選びます。
- 同じ手順を繰り返している
- 入力と成果物を説明できる
- 結果の良し悪しを自分または担当者が判断できる
- 失敗しても、最初は取り返しがつく
「営業活動を全部自動化する」のような大きなテーマは、最初のループには向きません。「先週分の問い合わせを分類して、確認用の下書きを作る」まで小さくします。
Step 2:設計図を埋める
次のテンプレートを使って、空欄を埋めてください。
ループ名:
トリガー:
目的と完了条件:
入力・参照範囲:
正本と照合先:
書いてよい先:
読んでよい先:
触ってはいけない先:
Agentが行う行動:
使える道具と権限:
検証する証拠:
実行時点・入力の版:
次回へ残す状態:
前回からの引き継ぎ方法:
失敗時の復旧方法:
停止条件:
人間へ相談する条件:
1回あたりの上限:
記入例
ループ名:週次問い合わせサマリー下書き
トリガー:毎週月曜、担当者が開始
目的と完了条件:
前週分の問い合わせを分類し、件数・重要な傾向・未対応事項を
1ページの下書きに整理する。各件数が元データと一致している。
入力・参照範囲:
前週の問い合わせ一覧と、チームの分類ルール。対象は前週の日付だけ。
正本と照合先:
問い合わせ台帳を件数・IDの正本とし、作成した下書きと照合する。
書いてよい先:
下書きフォルダへの新規ファイル作成のみ。
読んでよい先:
前週分の問い合わせ一覧、チームの分類ルール。
触ってはいけない先:
問い合わせ台帳の原本、既存の共有文書、前週以外の問い合わせ、外部送信先。
Agentが行う行動:
重複を確認 → 分類 → 件数集計 → 傾向を要約 → 下書きを作成
使える道具と権限:
指定フォルダの読み取り、下書きフォルダへの新規保存のみ。
外部送信と既存ファイルの削除は不可。
検証する証拠:
入力件数と分類後の合計が一致すること、未分類件数が明示されること、
要約の主張に参照元の問い合わせIDが付いていること。
実行時点・入力の版:
処理日時、対象期間、入力一覧を取得した時点を記録する。
次回へ残す状態:
処理日、対象期間、処理済みファイル名、未分類ID、エラー内容。
前回からの引き継ぎ方法:
同じ対象期間の続きなら前回の記録を読み込んで再開する。
記録が無いときだけ新規に開始する。
失敗時の復旧方法:
下書きだけを破棄または別名保存し、元の問い合わせ台帳と共有文書は変更しない。
停止条件:
入力期間が不明、件数が一致しない、同じエラーが2回続く、3回試行した。
人間へ相談する条件:
機密情報が含まれる、分類ルールにない問い合わせがある、共有前の承認が必要。
1回あたりの上限:
30分、3回の試行、指定フォルダ内の100件まで。
Step 3:Goal構文を別Agentにレビューしてもらう
Step 2で書いた「目的と完了条件」を、Goal構文として別のAI Agentに渡します。ここでいう別Agentは、サマリーを作る実行Agentとは別のレビュー役です。
GOAL:
trigger: 毎週月曜、担当者が開始
objective: 前週の問い合わせをチーム向け下書きに整理する
scope: 前週の日付を持つ指定フォルダの問い合わせだけ
constraints:
- 元資料にない事実を補わない
- 外部送信・公開・削除をしない
done_when:
- 件数が元データと一致する
- 未対応事項と参照元IDが記録されている
evidence: 入力件数と集計表、未分類件数、参照元ID
stop_when: 入力期間が不明、件数が一致しない、同じエラーが2回続く、3回試行した
escalate_when: 機密情報または分類不能な問い合わせを検出した
budget: 30分、3回、100件まで
レビューAgentには、次を確認させます。目的と完了条件が測定可能か、対象範囲と禁止事項が明確か、証拠を独立して取得できるか、停止・相談条件と上限があるか、実行Agentが目標を都合よく解釈できないか。結果はPASSまたはBLOCKと理由で返してもらいます。BLOCKなら自動実行せず、人間とGoalを修正します。レビューAgentがGoalを書き換えてそのまま実行することは許可しません。
レビューで確定したGoalに版番号を付け、実行Agentへ渡します。実行中に目的・範囲・完了条件を変更したくなった場合は、いったん停止し、変更後のGoalを再レビューします。
実行Agentへの渡し方は、CodexかClaude Codeの /goal を使うのが手軽です。確定したGoalの目標・完了条件・範囲・止める条件を、/goal の後ろに数行でまとめます。/goal が止まっても、それで完了とは扱いません。次のStepで、証拠と照らし合わせて確かめます。
Step 4:最小ループとして試す
設計したループを、いきなり自動実行しません。まずは次の手順で1周だけ試します。
- できれば、本番ではなく影響の出ない場所(コピーしたフォルダ、テスト用データ)で試す
- 入力範囲と権限が設計どおりか、人間が確認する
- Agentに1つの行動だけ実行させる
- 結果と参照元を記録する
- 完了条件を満たすか、チェックリストで確認する
- 不一致なら修正して再試行する。ただし上限を超えたら停止する
- 次回に残す状態と、設計の改善点を記録する
1周したら、増えたものを数える
1周終えたら、「作業した感じ」ではなく何が増えたかを数えます。次の3つのどれかが1つ以上増えていなければ、その周は前進していません。
- 完成した成果物(ファイル・下書き・集計表など)
- 検証で確定した事実(照合済みの件数、確認できた前提など)
- 減った不明点(次に何をすべきかが具体化した項目)
すべてゼロなら、もう1周回す前に立ち止まります。多くの場合、原因は AI 側ではなく次のどれかでした。
- 依頼が大きすぎて、1周では終われない形になっている
- 完了条件が曖昧で、何をもって増えたと言えるか決まっていない
- 成果は出ているが、確認する場所が違っていて拾えていない
このとき、実際に Agent へ送られた指示の全文も確認します。設計図に書いたつもりの内容が、そのまま届いているとは限りません(第3回)。
実行結果を証跡として残す
1周試したら、成功したかどうかだけでなく、次の記録を残します。
- 使ったGoalの版、対象範囲、入力の版と取得時点
- 正本と照合した結果、件数、差分、参照元
- 成功ケースと、対象外・入力不足などの失敗ケース
- Agentが変更した実体と、変更しなかった保護対象
- 失敗時にどこまで戻せるか、次に誰が何を判断するか
成功レスポンスや完了メッセージだけでは、実際の成果物や利用経路が正しいとは限りません。可能なら、利用者が実際に使う代表的な経路でも1回確認します。
Step 5:合格基準で自己評価する
次の項目にすべて「はい」と答えられれば、最小ループとして提案できます。
- 目的と完了条件が1文で説明できる
- Goal構文を別Agentがレビューし、
PASSまたは修正後の再レビュー記録がある - Agentが参照できる入力範囲を限定している
- Agentに与える権限が必要最小限になっている
- シェル実行のような「何でもできる道具」を渡していない
- 禁止したい操作を指示文だけで防がず、権限そのもので防いでいる
- 完了を判断する証拠が決まっている
- リトライ回数・時間・費用の上限がある
- 失敗時に、エラーと未解決事項が残る
- 正本との照合結果と、対象外が変更されていない証拠がある
- 成功ケースだけでなく、少なくとも1つの失敗ケースで安全に止まる
- 実行時点・入力の版・変更実体を記録している
- 失敗時の復旧方法または人間へ戻す条件が決まっている
- 外部送信・公開・削除などの前に人間の承認がある
- 書いてよい先・読んでよい先・触ってはいけない先が分けて書かれている
- 1周終えたときに「何が増えたか」を数えられる
- 実際にAgentへ送られた指示の全文を確認できる
- 次回に引き継ぐ状態が決まっている
「いいえ」が残る項目は、Agentを賢くする前にループの設計を直します。特に完了条件・証拠・停止条件が曖昧なまま自動化を進めないでください。
まとめ
- 最初の題材は、繰り返しがあり、結果を判断しやすく、失敗時の影響が小さい業務を選ぶ
- ループ設計図には、目標・入力・行動・権限・検証・状態・停止・上限を書く
- まず手動で1周し、結果と失敗を記録してから自動化の範囲を広げる
- 「正しくできた証拠」と「安全に止まる条件」がなければ、ループは完成していない
- 外部への確定操作は、最後まで人間の承認を残す
- Goal構文を別Agentに精査させ、
PASS/BLOCKと最終版を記録する - 触ってよい範囲は「書いてよい先・読んでよい先・触ってはいけない先」に分けて固定する
- 1周ごとに、成果物・確定した事実・減った不明点のいずれかが増えたかで判定する
- 完了は「機能が動く」ではなく「利用者が目的の操作を終えられる」で判定し、効果は測るまで未測定と書く
振り返り
- あなたが作ったループの「最小の1周」は、どこからどこまでですか?
- Agentが誤った場合、どの証拠を見て気づけますか?
- 次に改善するなら、入力・行動・検証・停止のどこですか?
- 1周目で「増えたもの」は何でしたか。ゼロだった場合、原因は依頼の大きさ・完了条件・確認場所のどれでしたか?
- あなたの仕事の利用者が最後に終えるべき操作は何ですか。実際にそこまでたどって確かめましたか?
出典・クレジット
本文中の運用上の知見(触ってよい範囲の3分割、1周ごとに増えたものを数える判定、実際に送られた指示の確認)は、株式会社COMPASS が自社プロダクト開発で複数 AI Agent を運用した際の実測と記録にもとづく自社作成の内容です。
相談導線の実例は、株式会社COMPASSが自社の公開講座で2026年9月29日に確認した記録にもとづく自社作成の内容です。表の「未測定」のとおり、カード追加後の効果はまだ測定していません。6欄の依頼書と演習は、この記録をもとに作成した架空の演習です。
そのうえで、本教材は次の一次資料を参照し、内容を独自に再構成しています。資料本文の転載は行っていません。 この資料は査読前のpreprintであり、確立した業界標準としてではなく、比較的新しい実務概念を整理する参考資料として扱っています。
- Stop Hand-Holding Your Coding Agent(arXiv preprint) — Sandeco Macedo, CC BY 4.0
- OpenAI「Follow a goal」「Using Goals in Codex」、Anthropic「Claude Code Docs」(
/goal・/loop)— Codex と Claude Code に組み込まれたループ機能の仕様を参照(2026-10-01確認)
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この講座の内容で、専門家に相談する
自社に当てはめる時に迷うところは、専門家に直接相談できます。
栗田経営者向けAI導入・AI Agent活用 X @hikarine3
COMPASSのAI導入と業務設計を支援しています。経営課題を整理し、AI Agentへ任せる範囲と人が確認するポイントを一緒に設計します。
相談できること
- 自社の業務で AI Agent のループを設計したい
- AI Agent の品質ゲートと監査の仕組みを作りたい
- Claude Code / Codex の運用ルールを整えたい
相談料: 初回の最初の30分: 20,000円 (税別)。2回目以降と延長: 30分ごとに50,000円 (税別)。
この講座の内容で相談する送信後、担当者から日程と進め方をご連絡します。送信しただけで費用が発生することはありません。
このコースには 6 レッスンあります。 所属組織の受講登録が完了すると全レッスンを閲覧できます。